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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)145号 判決 1975年3月11日

原告

大成観光株式会社

右代表者

青木寅雄

右訴訟代理人弁護士

橋本武人

外四名

被告

東京都地方労働委員会

右代表者

塚本重頼

右訴訟代理人弁護士

馬場正夫

外二名

参加人

全日本ホテル労働組合連合会

右代表者

佐々木吉郎

参加人

ホテルオークラ労働組合

右代表者

松本毅

参加人

松本毅

外四名

右参加人七名訴訟代理人弁護士

小谷野三郎

外五名

主文

1  被告が、参加人ホテルオークラ労働組合他六名が申立人であり、原告が被申立人である都労委昭和四六年不第二号不当労働行為救済申立事件について、原告に対し、昭和四七年一〇月二日に同年九月一九日付命令書の写しを交付してした命令のうち、別紙記載部分を取り消す。

2  訴訟費用は、参加人によつて生じたものは参加人らの負担とし、その余は全部被告の負担とする。

事実《省略》

理由

一行政処分の成立

原告はホテル業を営む株式会社で、肩書地において『ホテルオークラ』を経営し、その従業員数は約一二〇〇名である。参加人清水賢優、兵動昭、平林伸介、渡辺哲雄及び松本毅はホテルオークラの従業員で、参加人組合の組合員たるものである。参加人組合は原告の従業員をもつて組織するいわゆる企業別労働組合であり、かつ、ホテル、旅館及び料理飲食業に従事する労働者をもつて組織されたいわゆる連合体たる参加人ホテル労連の単位組合である。

参加人組合は昭和四五年一〇月にいわゆるリボン闘争を実施し、当時参加人組合の執行委員長である参加人清水、同副委員長である参加人兵動、平林及び渡辺並びに同書記長である参加人松本が参加人組合のいわゆる三役として右闘争実施にあたつたが、原告は組合幹部たる右参加人五名の者に対し本件リボン闘争を実施したことの故をもつていわゆる幹部責任を問う懲戒処分として同年一〇月及び一一月にそれぞれ減給及び譴責をおこなつた。

参加人らは、右懲戒処分が不当労働行為に該当するとして、昭和四六年一月二〇日に原告を相手方として被告に対し右減給及び譴責処分を取り消すこと、及び右減給に係る賃金相当額を支払うべきことの救済の申立てをした。被告は、右申立てに係る都労委昭和四六年不第二号不当労働行為救済申立事件について、参加人らの請求に係る救済を理由があると判定して、昭和四七年一〇月二日に原告に対して同年九月一九日付命令書の写しを交付して、救済を認容する旨の命令(別紙記載のとおり)を発した。

以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。ところで、被告は、右不当労働行為救済申立事件について、参加人組合の後記二のリボン闘争は労働組合の正当な行為であるとし、したがつて参加人清水ら五名の者が組合幹部として本件リボン闘争を実施したことの故をもつて、右五名の参加人に対して減給及び譴責処分をおこなつたことは、労働組合法七条一号の不利益取扱いたる不当労働行為にあたるとして、参加人らの請求に係る救済の認容をしたのであるが、原告は後記二のリボン闘争の正当行為性を争うので、これについて以下判断を進める。

二リボン闘争の経緯

1  参加人組合は、昭和四五年九月二一日に原告に対して正従業員の賃金につき一律一万円プラス年令別加算二〇〇〇円から一万七〇〇〇円までの昇給をおこなうことなどを要求して、三回にわたつて団体交渉をかさねたが、原告の提示額が平均九〇〇二円の賃上げにとどまる回答であつたので、これを不満とし、右要求を貫徹する目的をもつて、組合員たる従業員は就業時間中に各自後記リボンを着用するものとするいわゆるリボン闘争を実施することとしたうえ、同年一〇月三日に原告に対して原告の誠意ある賃上げ回答が同月五日までに提示されないときは同月六日午前九時からリボン闘争に入る旨の通告をして、同月五日に原告から前記回答額に一〇〇〇円を上積みして平均一万二円とする旨の提示を受けたが、これも不満として、同月六日に組合員に対して同日午前九時から上衣左胸部位に後記リボンを着用すべき旨の闘争指令を発して、右日時から同月八日午前七時までリボン闘争を実施した。

右の事実は当事者間に争いがない。そして、<証拠>によると、右リボン闘争に参加して後記リボンを着用した者は、同月六日において出勤者九七八名中二二八名であり、同月七日において出勤者九六二名中二七六名であることが認められる。

2  原告は、参加人組合の右闘争通告に接し、その日(同月三日)に参加人組合に対して就業時間中のリボン着用を禁止する旨及びこれに違反したときは断乎たる処置をとる旨の警告を文書で発するとともに、右警告書同旨の掲示で告と題するものを会社施設内に張り出したが、それにもかかわらず右1のとおりリボン闘争が実施されたので、就業規則の定めるところに従い、参加人清水、兵動、平林、渡辺及び松本に対して、参加人組合の三役たる幹部として右1のリボン闘争を実施した責任を問い同月一三日にそれぞれ平均賃金の半日分を減給する旨の懲戒処分をおこなつた。このことは当事者間に争いがない。

3  参加人組合は、同月二四日に団体交渉によつて原告から賃上額平均一万一二六一円とする提示を受けたが、右2の懲戒処分を不当として、同月二七日に右懲戒処分の撤回等を要求して団体交渉に臨んだところ、原告の拒否にあい、ついに団体交渉が決裂するにいたつたので、右要求を貫徹する目的をもつて、同日午後一一時過ぎに原告に対して同月二八日午前七時からリボン闘争に入る旨の通告をしたうえ、組合員に対して同月二八日午前七時から前回同様にリボンを着用すべき旨の闘争指令を発して、右日時から同月三〇日午後一二時までリボン闘争を実施した。

右の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によると、右リボン闘争に参加して後記リボンを着用した者は、同月二八日において出勤者九五〇名中二五六名であり、同月二九日において出勤者九七三名中二四三名であり、同月三〇日において出勤者九八九名中二三三名であつたことが認められる。

4  原告は、参加人組合の右闘争通告に接するや、ただちに同参加人に対して前回同旨の警告文書を交付したにもかかわらず、右3のとおりリボン闘争が実施されたので、前回同様に参加人清水ら五名の者に対していわゆる幹部責任を問い、同年一一月一九日にそれぞれ譴責処分をおこなつた。このことは当事者間に争いがない。

5  <証拠>によると、本件リボン闘争の用に供されたリボンは、二種類あつて、いずれも布地を使用したものであるが、一つは、紅白各三枚の花弁を紅白交互に組み合わせた直径六センチメートル大の円い花を象り、白色弁の一枚だけがさらに六センチメートル垂下した幅2.5センチメートルの布地に二四ポイント大の明朝体で等間隔に要求貫徹の四字が黒色スタンプで印されているものであり、他は、花弁の長さ三センチメートルの桃の花を象り、花萼の中心から垂らした幅2.5センチメートル、長さ一一センチメートルの白布地に二八ポイント大の明朝体で等間隔に要求貫徹の四字が、これに添えて一六ポイント大の明朝体でホテル労連の五字がそれぞれ朱色スタンプで印されているものであつて、リボン着用者は右のリボンのいずれかを各自着ている上衣の左胸部位に安全ピンで留めて佩用することを常態としており、要求貫徹の右四字は概ね三メートル以内で判読しうることが認められる。

三リボン闘争の特質

いわゆるリボン闘争は労働者の使用者に対する要求ないし主張を貫徹する目的をもつて、労働者がリボンを着用しておこなう団結示威の表現活動を行為内容とする団体行動であるが、その有り様は前記二、5にみたとおり方法及び態様をもつて着用したリボンが団結の示威を表象するのである。いかにも、リボンそのものはなにがしかの花の姿を観照させるような装飾的なものであつたりするが、労働者がこれをリボン闘争の用に供して佩用するときは、その形象を離れて団結の象徴と化するのである(象徴性)。ことさらに「団結」とか、「要求貫徹」とかいつたような表記が添えられることがなくても、団結示威の表現に欠けるところはない。しかも、リボン闘争による団結示威の表現作用は散発的又は間歇的に断続するのでもなく、その着用を通じて間断なく執拗に持続する(執拗性)。そして、リボン闘争は、その参加者全員がリボンを着用して職場に現われること(集団性)、同じようなリボンを同じ箇所に付けること(斉一性)、リボンの称呼にふさわしい形状、色彩、大きさのものを目立つように佩用すること(明瞭性)によつて、労働者の団結示威を端的に表現するものであるが、右のような象徴性、集団性、斉一性、明瞭性及び執拗性がリボン闘争の威力を増幅させていることはいうまでもない。それにリボンの製作、入手及び着用が簡単であることから安易にリボン闘争を実施することができるし、リボン闘争を実施したためにロックアウト、賃金カットの対抗措置に遭う虞れも殆んどないことから労働組合の戦術としてしばしば駆使される傾向にあるので(安直性)、リボン闘争が近時労働組合の有力な闘争戦術として確実な地歩を占めていることは否定しがたい。

リボン闘争における団結示威の性状は右にみたとおりであるが、リボン闘争による団結示威の機能からみれば、リボン闘争は、一面使用者に対しては、労働者の団結を示威する作用をもつものであるが、他面労働者においては、言語、身振り等の伝達手段に訴えることなくして、リボンを着用して職場で相見えることにより、労働者の連帯感をあらためて触発され、仲間の団結をより鞏固にして当面の闘争勝利への士気を鼓舞し合う営為を、個々の労働者において自乗的に、労働者相互において相乗的に果すのである。このように二面作用を営むものであるが、その機能領域の異別によつてみれば、後者の営為はまさしく労働組合のいわゆる組合活動の領域に属し、前者の営為は労働者の使用者に対する争議行為の領域に属する。

本件において、<証拠>をあわせると、本件リボン闘争は、参加人組合の要求ないし主張を貫徹するために原告に対してする団結の示威であることはいうまでもないが、それにもまして結成後三か月しか経つていない参加人組合の内部における組合員間の連帯感ないし仲間意識の昂揚、団結強化への士気の鼓舞といつたような参加人組合自身のいわば体作りの効験を重視し、かつ、ストライキ一歩手前のウオーミングアップ的戦術を狙つて実施したものであることが認められる。

四リボン闘争の違法性

1  一般違法性

いわゆるリボン闘争は、一般に違法であると、当裁判所は判断するものであるが、その違法性については、リボン闘争による団結示威の機能領域の異別という前記視点から、組合活動の面と争議行為の面とにわけて考察することとする。

(一)  組合活動の違法性

いわゆる組合活動として、労働者の連帯感を昂揚し、その士気を鼓舞するためにおこなう団体行動は、リボン闘争にかぎらず、ほかに鯨波(シュプレヒコール)を挙げ、握り拳を突き上げてする集団示威もそうであるが、本来労働組合が自己の負担及び利益においてその時間及び場所を設営しておこなうべきものであつて、このことは負担及び利益の帰属関係からして当然の事理に属する。ところで、勤務時間中であるという場面は、労働者が使用者の業務上の指揮命令に服して労務の給付ないし労働をしなければならない状況下のものであり、まさに使用者の負担及び利益において用意されたものにほかならないから、勤務時間の場で労働者がリボン闘争による組合活動に従事することは、人の褌で相撲を取る類の便乗行為であるというべく、経済的公正を欠くものであり、しかも、これによつて、たとい労務の給付ないし労働の成果にさしたる影響を与えないとみられるような場合においても、その労働組合の組合員間においては、リボン闘争による団結の示威がかの象徴・集団・斉一・明瞭・執拗性をもつて、労働者の連帯感を喚起し、闘争への士気を鼓舞し合う営為を自乗的かつ相乗的に果すのである。したがつて、労働者がその労務の給付ないし労働に服しながらリボン闘争による組合活動に従事することは、誠実に労務に服すべき労働者の義務に違背するものと解するのが相当であるがら、労働者が右のようにして勤務時間中に組合活動を展開することを使用者において忍受しなければならない理由はさらにない。

(二) 争議行為の違法性

いわゆるリボン闘争において、団結の示威がおこなわれる場面では、団体交渉、同盟罷業等の団体行動と同じように、労使対等の原則が支配するが、他方勤務時間中である場面では、使用者の業務上の指揮命令とこれに従つて労働者が労務の給付ないし労働に服しなければならない上下関係が支配する。したがつて、リボン闘争の展開は、いきおい右の上下関係と対等関係とが重量的に競合する場面を呈する。これを心理構造のうえからみると、労働者の場合において、使用者の指揮命令に従つて労務の給付ないし労働に服している場面では服従と誠実の心理構造がはたらき、これに乗じて団結の示威をおこなつている場面では拮抗と闘争の心理構造がはたらくが、両者は心理上相反撥する関係にありながら、その同時性のために二重構造的に機能する。また使用者の場合において、業務指揮権にもとづいて労務の給付ないし労働をさせている場面では指図と要求の心理構造がはたらき、リボン闘争による団結示威がおこなわれている場面では逡巡と沮喪の心理構造がはたらくが、ここでも両者が二重構造的に機能するのである。

右のような心理上回二重構造的機能から醸し出される違和感は労使ともに免れられないものであるが、特に使用者に対する神経戦術として心理的嫌がらせをはたす効果が著しく、このリボン闘争の戦術効果の相乗累積は、やがて使用者と労働者間の命令服従の上下関係をその根底において風化させる虞があるし、その弊害たるや「リボン」を冠するといつた呼称の情緒性では到底企及しえない底のものであつて、使用者の業務指揮権の確立を脅かすに至るというべきである。そして、労働者に対する関係においても、一面従順、他面反駁といつた心理上の二重機能的ミカニズムは倫理的存在たる人間の精神作用を分裂させて二重人格の形成を馴致する虞れなしとしないのであるから、労働人格の尊厳のため、リボン闘争は採らざる戦術というべきである。

そのうえ、労働者のリボン闘争に対抗しうる争議手段を使用者は持ちあわせない。すなわち、リボン闘争による団結の示威に従事しながらおこなう労務の給付ないし労働が労務給付ないし労働自体として一見間然するところがないようにみられる場合、又はリボン闘争による業務阻害が使用者に対する心理的嫌がらせの域を出ないものである場合において、リボン闘争の故をもつていわゆる賃金カットをすることは、その技術的困難さもあつてしかく安易ではない。また、使用者の争議手段たるロックアウトは、リボン闘争における団結示威の性状に照らして、牛刀を用いる憾があつて労使間の公平の原則に悸るものというべく、かつ、戦術的に、ロックアウトの硬直性をもつては到底リボン闘争の安直性・伸縮性に追随しえないことと相俟つて、リボン闘争に対抗してロックアウトを実施することもまた事実上不可能であるから、リボン闘争においては、労使対等の原則からみて、使用者が労働者に対抗しうる争議手段ないというべきである。

以上のとおりであるから、リボン闘争は、争議行為の面においても、使用者においてこれを忍受すべき合理的理由を欠くものと解すべきである。

右(一)及び(二)にみたとおり、リボン闘争は、いわゆる組合活動の面においても、争議行為の面においても、労働組合の正当な行為ではありえないというべきである。そこで、本件リボン闘争は、すでに認定したところにより、いわゆるリボン闘争を地で行つたものであることが明らかであるから、参加人組合の正当な行為をもつて目すべきではないといわなければならない。

2  特別違法性

右1において、いわゆるリボン闘争の一般違法性に照らして本件リボン闘争もまた違法であることをみてきたわけであるが、本件リボン闘争による業務阻害については、さらに精覈に考察すべきものがある。

<証拠>を総合すると、原告は、大倉喜八郎の長男で約二〇年間にわたり帝国ホテルの社長、会長を経歴した大倉喜七郎が都心に超一流のホテルを建設することを発意して、昭和三三年一二月に設立された会社で肩書地に建物の瀟酒な風格と威容を自負する全館アウトサイドルーム方式客室数五五〇ユニット(四九〇室収容人員九七三名)を擁する三つ矢形鉄骨鉄筋コンクリート造り地上一〇階地下二階塔屋四階を建築して、昭和三七年五月にホテルオークラを開設し、いらい国際観光ホテル整備法(昭和二四年法律二七九号)にもとづくホテル経営をしているものであるが、宿泊及び宴会等に特に外国の元首、王公族、大臣、特使をはじめ、政治、経済、宗教、文化等各界のトップ級の外客がよく利用していることから、国際的視野に立つてホテル業の研鑚、運営に努め、外客接遇の充実をめざし、ホテル従業員の容姿、服装、身嗜み、挙措、言行については、いわゆるホテルオークラマンの品格、威信なるものの矜持をもつてその教育、研修に意を用い(国際観光ホテル整備法施行規則(昭和二五年運輸省令四九号)五条の五参照)、たとえば、職種、職階ごとに一定基準の制服を勤務中着用させ(同施行規則五条の六参照)、基準に定める以外のものは装飾品であつても一切着けさせないこととして規制しているので、本件リボン闘争に際しては、事前にその非を強く警告し、闘争実施に入るや、リボンを着用した従業員は客に接するおそれのない職場に臨機配置替えをおこなつて、争議状態にある労使間の緊張関係をことさらに接客面で誇示されることがないように職制を動員して奔走させたことを認めることができ、<証拠>によると、帝国ホテル、ホテルニューオータニ、パレスホテルなど都内屈指の一流ホテルにおいては、いずれも、ホテル従業員の服装、身嗜み、言行等の躾に関し原告のホテルオークラと同工異曲格別の著意をもつて律していることが認められる。そこで以上の認定事実に弁論の全趣旨をあわせると、ホテルの企業経営においては、物的施設及び人的機構が客を中心にした組織的受入体制として総合的に演出され、全体としての情緒ないし雰囲気とあわせて客の接遇が重要視されることから、ホテル従業員は常に服装身嗜みに留意し、挙措言行を慎み終始明朗な態度をもつて親切丁寧に応対し、休らい、寛ぎ、快適さが与えられるように客を接遇すべきことが至上命令として要請されるのであつて、ホテル営業におけるサービスの要諦を右のように措定するかぎり、ホテル経営者の企業努力の中枢部分もまたそこにある。かように認めることができる。

ところが、いわゆるリボン闘争の実施は、ホテル業の場合においては、それ自体ホテルの施設機構のなかで労使が争議状態に入つて互いに緊張していることを端的に誇示し、右の緊張関係をまのあたり現前させるものであつて、客がホテルサービスに求めている休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁であるばかりでなく、徒らに違和、緊張、警戒の情感を掻き立ててホテルサービス業の総合的演出効果を著しく減殺し、ひいてはホテルの品格、信望につき鼎の軽重を問われ、ホテルに対する客の向背を左右するに至ること必定である。しかも、ホテルの品格、信望は、ひとたび貶められれば、これを回復することが著しく困難であり、そのために金銭をもつて償なうことができないほどの損害をこうむることもみやすい道理である。

右によれば、ホテル業におけるいわゆるリボン闘争は、その業務の正常な運営を阻害する意味合いに深甚なものがあるといいうるから、このような業務阻害をホテル業の使用者において忍受しなければならない理由はさらにないとと解すべきである。

本件リボン闘争は、まえにみたとおり、原告の経営に係るホテルオークラの営業に関して参加人組合がいわゆるリボン闘争を実施したものにほかならないから、その違法性は顕著であり、到底参加人組合の正当な行為たりえないといわなければならない。

五行政処分の瑕疵

以上の理由によれば、本件リボン闘争は、いわゆる組合活動の面においても、また争議行為の面においても、違法であることが明らかであるから、参加人組合の正当な行為ではありえないにもかかわらず、被告は、本件リボン闘争が参加人組合の正当な行為であると判断し、この判断を前提として、原告の前記参加人五名の者に対する減給及び譴責処分がそれぞれ不利益取扱いたる不当労働行為に該当すると判定して、参加人らの請求に係る救済を認容したことが明らかである。そこで、本件懲戒処分の成立及び効力について判断を進めるまでもなく、すでに本件救済命令はその前提を誤まつた瑕疵ある行政処分として違法であり、取消しを免れないものといわなけばれならない。

よつて、原告の本訴請求は理由があるから、これを正当として認容し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条及び九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(中川幹郎 原島克己 大喜多啓光)

(別紙)

被申立人大成観光株式会社は、申立人清水賢優、同兵動昭、同平林伸介、同泉田小次郎、同渡辺哲雄、同松本毅らに対する昭和四五年一〇月一三日付減給処分および同年一一月一七日付譴責処分を取り消し、かつ、申立人清水に対し金一五一五円、同兵動に対し金一〇七二円、同平林に対し八〇〇円、同泉田に対し金七八三円、同渡辺に対し金五七四円、同松本に対し金九五七円をそれぞれ支払わなければならない。

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